夏のバイトの話

―――ここからーーー

 毎年夏休みに、同級生の実家へ遊びに行ってそこで手伝いバイトをしている。今年で5回目なので家の人とも仲良くなっていたのだけれど、自分の都合で来年以降はもう参加が難しそうなので、バイトの最終日はなかなか寂しくもあった。今年初参加の後輩の指導なんかをしつつノウハウはある程度引き継いだので、バイトの最後の仕事も終了。あとは彼がなんとかしてくれるでしょう。

 最初に参加したのは大学1年生の時で、サークルの同期だった友人が「親父がバイトを募集している、バイトといっても楽だし遊びに来ないか」と誘ってくれたことがきっかけだった。彼の実家は養鶏場に成鶏(せいけい、と読むそうです)を売る仕事をしていて、有精卵を孵してひよこにして、成鶏にするところまでを行っていた。夏にだけバイトが必要なほど人手が掛かるのは、気温のおかげで孵卵器の電気を節約できる間にたくさん卵を孵してしまいたいかららしい。暇な時間は、川が近くにあるから釣りとかラフティングとかもできるよ、と言われて安上がりで遊びに行くくらいのつもりで参加したのが最初だ。

 成鶏を育てる過程でバイトが駆り出されるのは、孵卵器から孵ったひよこを黄色く塗る作業だ。僕もここで初めて知ったのだが、ひよこ本来の色はなんと白なんだという。友人がバイト前に「みんなびっくりするぜ」と言ってにやにやしていたから絶対に驚いてやるものか、と思っていたのだけどこれは確かに意外であった。実際の作業としては単純で、ピヨピヨと鳴きながら転がっている真っ白なひよこらを捕まえては手作業で一羽づつ黄色く染めていき、晴れて黄色くなったひよこは育ての親のもとへと送り込まれる。地味なんだけど大変な作業で、ひよこがかわいくなかったらやっていられなかったと思う。

 意味もわからずに延々と地味な作業を続けるのはなかなかに苦しいので、親父さんに黄色く塗る意味を聞いたことがある。なんでもこのひよこの着色は、親鶏にその後の面倒を見させる地鶏にだけ必要な作業なんだそうで。品種改良の過程で白色をちゃんと認識できなくなった親鶏に、ひよこを最後まで育ててもらうには着色する必要が出てきたのだという。地鶏以外の品種では今でも白いままのひよこを育てているらしい。「どうしてひよこ=黄色みたいなイメージが広がっちゃったんでしょうか?」と聞くと「みんなそんなに黄色いと思ってるの?」とのこと。

 今日でひよこ塗りのバイトも終わりだけども、話のタネとしては実にいい体験のできたバイトだったと思う。ありきたりだけども、こいつらゆくゆくは食べられちゃうんだよなぁ、なんて思うと命をいただくありがたさを感じたりとか。ひよこが実は白い話はきっと事あるごとにトリビアとして話していくのだろう。

―――ここまで嘘―――

嘘です。

夏の間だけ友達の家業の手伝い、とかしてみたかったですよね。地元の可愛い女の子と出会いがあったりしてひと夏の恋とかするんですよきっと。夏のバイトの話、以上です。