史上最強の雨男と全自動てるてる坊主の話

(*フィクションです*)

遠い異国、時はいつだかわかりませんが、とんでもない雨男が生まれました。名前もわかりませんが、とんでもない雨男だということだけが伝わっています。彼はそんじょそこらの雨男ではありませんでした。

生まれた日は50年に1度の大雨でした。入学式も卒業式も必ず雨です。遠足は絶対に雨が降るので、いつしか初めから屋内施設にしか行かなくなってしまいました。運動会は延期を繰り返しているうちに卒業してしまいました。彼が卒業した翌年、6年分の運動会が行われました。

でも彼が生きている間ずっと降り続いていたならあっという間に国は水没。このお話も伝わっていません。ちゃんと水没はしないくらいに晴れ間もありました。「とんでもない雨男なのに、晴れているときもあったのんじゃあ大したことないな」とお思いかもしれませんが、それでも彼は史上最強の雨男でした。なにしろ彼自身は晴れ間を見たことがありません。彼が寝ている間は晴れていました。彼の目覚めとともに雨雲がやってきて、彼が眠りにつくと雨雲はどこかへ去っていきました。町の人は雨が降っているかどうかで、彼が起きているかどうかがわかりました。彼が隣町へ出かけていくとこちらの町では雨があがり、隣町は雨になりました。主婦は怒ります。あんたが来ると洗濯物が乾かないじゃないか!彼は言い返します。おれは、今まで部屋干ししかしたことないんだぞ!

そんな彼が晴れ間にあこがれるのも当たり前のことです。青空は写真でしか見たことがありません。自分が去っていくと虹が出るそうですが、自分では見れません。今日は流星群が見られるらしいよ!もちろん見えません。流れ星に「晴れ間」をお願いしようと思ったのに!ここ何年も干ばつに悩まされているという国に出かけてみると、やっぱり、雨が降ってきたので神様と崇め奉られます。頼むから我らの国へいてくれ!と言われてしばらく住んでみましたが、彼がいる間は結局ずっと雨だったので諦めて帰国しました。もちろん、彼の帰ったあとは雨がやみました。

ある時、彼の耳にとある噂が舞い込みます。極東の小さな島国に、晴れを引き寄せる呪術人形があるそうです。Teru-teru bozuというその白い小さな布きれは、ぱっと見には何の効果もありそうにありません。でも彼は、一目見た時にぴんときました。これだ!早速作ってつるしてみます。が、残念、彼は史上最強の雨男です。てるてる坊主もこんなやつと戦ったことがありません。翌朝は雨でした。

でも彼は諦めません。もう他に頼るすべがないのです。一つでは力が足りないのかもしれない。彼はてるてる坊主をたくさん、たくさん作り始めました。彼にはちょうど、干ばつの国に雨を降らせた時にもらったお金がたくさんあったので、一日中てるてる坊主を作って過ごすようになります。てるてる坊主の重みで軒下が壊れて落ちたてもまだ雨が降っているのを見て彼は、てるてる坊主制作のオートメーション化を決意します。資金は十分にありましたし、なくなったらどこか干ばつの国に行って来ればいいのです。彼は町に巨大なてるてる坊主の生産ラインを建設しました。てるてる坊主工場の敷地面積は実に東京ドーム8個分。彼の圧倒的な資金力で買い集められた石油がベルトコンベヤーを回し、町に仕事口を生み出すことにもなりました。町の税収は彼のてるてる坊主工場がほとんどを占めるようになり、「ようこそてるてる坊主の町へ」という看板が町の入口に立てられました。

てるてる坊主工場が軌道に乗り始めたころ、ある変化が起きました。遠く、遠くの方ではありますが、彼の目に写る範囲に青空が見えたのです。向こうの空では晴れ間が見えています。彼のてるてる坊主工場は無駄ではなかったのです。彼の目からは自然と涙がこぼれました。たぶん、雨ではなかったはずです。最初のてるてる坊主工場が創業してから実に5年が経過していました。

その後ほどなくして彼の頭上にも晴れ間が広がるようになりました。ついに、ついに彼は自らの雨男としての呪いに打ち勝ったのでした。彼はその後の生涯を家族の笑顔と突き抜けるような青空の下で終えました。

彼の死後、てるてる坊主に埋め尽くされたその国はあっという間に干ばつで滅びました。おしまい。

 

 

 あとがき

唐突に滅ぶお話でした。前回も滅ぶ話だったので滅ぶ話ばっかり好きなのかもしれません。滅ぶ話の方が出てきやすいのはなんなんだろう。次も滅ぶ話になっちゃうかもしれない・・・

「上げて落とす」みたいな展開はホラー映画とかサスペンスとかで見るように思うけど、そうと思わずに読んでいてこれだとさすがに後味が悪すぎるであろう、とあとがきを付けたしました。「こういうのが好きなのかもしれないなぁ」と自分がちょっとかかわった後輩の舞台演技が、二年連続でホラー・サスペンス系になったのを見て思いました。