クラシックの話

たまたまオーケストラを観る機会があった。

父から「オーケストラに興味ないか?NHK交響楽団の公演があるのだが」というメールが届いた。自分としてはオーケストラとかのクラシックはやや苦手意識があるというか、作曲家とか音楽分類の知識がなければ理解できないと思っているので、「自分のような知識のない若造が見てもわからんのではないか、せっかくの立派なオーケストラの価値がうんぬん」などと考えてしまう。それでも「予定空いてるので行きます」と返信をした。父と最近会っていないし、もしかするとこれは父なりの親子コミュニケーションの取り方かもしれない。自分がクラシックがわからなくても父は知ってるだろうから聞けばいいや。それに、経験を積まなければいつまで経ってもわからないままであろう。そう考えての返信だったのだけれど、後日郵送でチケットが届いたときに勘違いをしていたことを知った。

「忘年会でいけないので代わりに行ってください」

一人でした。親子コミュニケーションではなかった。わからないなりに経験を積む、という目的だけが残ったよ。一緒に入っていた手紙には「マーラーは巨人とか4番5番がポピュラーですが3番はどんなのかよく知りません」とのこと。残念ながら巨人も4番も5番も知らない。聞いたらわかるパターンもあるかもしれないけど、名前がわからない。わかる人になりたい。「マーラーは5番の第2楽章が一番好きだね」とか言いたい。クラシックをちゃんと知っている人からしたらちゃんと勉強しなさい、と言ったところじゃないだろうか・・・

 

結局、当日まで勉強など全くせずに行くことになった、どころか開演1時間前くらいに公演のことを思い出した。忘れずにちゃんと行ったことだけは褒めて欲しい。

オーケストラとか吹奏楽団もそうだけど、公演のパンフレットに曲の紹介が丁寧にされていることがほとんどだ。今回ももちろん、ちゃんとした説明があるのだけど案の定もわっとしかわからない。全部理解できたことは一度もないかもしれない。

「人の手の入らぬ自然そのもののように野放図に展開する独創的なソナタ楽章。葬送行進曲風の重苦しい冬の主題群(ニ短調)と足取り軽やかな軍楽隊の奏でる夏の行進曲(ヘ長調)が3度にわたって交替する。」

「壮麗なアダージョ主題は第1楽章冒頭主題の変形だが、特筆すべきは第1楽章の小結尾主題や第4楽章の『世界の嘆きは深い!』という旋律線に由来する苦痛の主題と呼ぶべきものが登場していることだ」

 当日のパンフより。クラシックに詳しくなるとわかるんだろうか・・・?わかるんだろうな。上が第1楽章の説明の一部なのだけど、とりあえず重苦しい部分と明るく軽快な部分が3回交替するということはわかった。

公演が始まってみると、オーケストラの一番後ろに合唱団が控えていた。ざっと100人くらいだろうか?パンフを見ると、なるほど、第4楽章と第5楽章だけ歌詞があるらしい。合唱団が歌うのはそのうち第5楽章だけ。「声楽を動員しながら最終楽章に使わないという大胆なアイディア」などと書かれているけど、動員された側はたまったものじゃないんじゃなかろうか。結局第5楽章だけやたら短かったので10分くらいしか出番がなかったように思う。他の時間は座ったまま身じろぎもせずに待機しつづけていた。

 

2時間の公演が終わって、良いものを聞いたなあ、という感想にはなるのだけど、残念ながら知識が足りないと語る言葉もないので全然他の表現ができない。「あそこが良かった」みたいに思うことはあっても、その場所をなんと表現したらいいかわからない。ダサい・・・のに加えて、こっちの方が問題じゃないかと思うけど、折角聞いた曲が記憶に全然残らないのだ。

思うに、オーケストラの音というのは複雑で、正しいかわからないけど「言葉らしくない」ように感じる。ポップとかロックとか、歌詞がないインスト曲であっても、それらは「言語として」保存できている気がする。日本語で聞いた言葉であれば記憶に残るし再現もある程度できるのだけど、外国語で話されると音としては聞き取れて一時的には記憶できたとしてもすぐに抜け落ちてしまうというか。「隣の客はよく柿食う客だ」だと記憶できても「Der folgende Besucher ist gut, und eine Dattelpflaume ist ein Besucher des Misserfolgs」だと理解はおろか記憶することすら叶わない、という感じだと思う。

 

とりあえず、クラシックを理解して今後「マーラーは5番の第2楽章が一番いいよね」とか言えるようになるためには少なくとも用語を理解する必要があるはずだ。なのでまずはパンフに載っていた用語を全部調べるよ。

・・・と思って実際に調べつつ途中まで書いていたのだけど、これは奥が深すぎますね。用語の解説に別な用語が出てきて、その用語を調べるとまた次の・・・といった感じでいつまで経っても知らないといけない単語が減らない。教科書とかないと無理なんじゃないだろうか。しかしよっぽどの興味とやる気がないと教科書で勉強なんてできないだろうし。

まず用語を理解してから聞こう、というのは難しそうなのでむしろある程度いろいろと聞いてから遡る形で用語を理解していくのが正しいのかもしれない。まずはマーラーの5番を聞くところから始めることにします。